海外FXでは標準化されたゼロカットシステムはなぜ日本に導入されないのか
海外FX業者を利用するメリットはもちろんハイレバレッジやボーナス制度など国内業者が提供できないサービスプログラムがあることは事実ですが、もう一つ重要なサービスがあります。それがゼロカットシステムと呼ばれるものです。これは相場がどのような事態に陥っても証拠金を超える損失を被ったときに業者が一切追証を請求しないというフェイルセーフの仕組みとなっているものです。海外FX業者ではかなりのところが早い段階からこの仕組みを導入しており、2015年のスイス中銀ショックや同年夏の中国人民元ショックなどで相場が突然暴落しても利用者は一切証拠金を超える損失について請求を受けることなく済んでいます。ただ、FX事業者はこうした暴落では業務が立ち行かなくなるケースもあり、実際に英国を本拠地としていたアルパリは事業継続を断念、日本の別法人も結局事業を撤退するという憂き目にあっています。それほど業者にとっては厳しい条件であるにもかかわらず海外業者は顧客保護のための仕組みとしてゼロカットシステムを積極的に導入していることがわかります。
ESMAは業者に必須要件化
2018年8月、ESMA・欧州証券市場監督庁は欧州圏に居住する利用者を対象としたEU域内に本拠地を置くFX業者に対して日本並みの厳しいレバレッジ規制やボーナスインセンティブの廃止を通達しましたが、この時に正式にゼロカットシステムをすべて欧州圏の利用者に対して実装することを命じています。これにより正式にゼロカットシステムの実装は欧州圏のFX業者の必須業務要件となっているのです。ある意味、その位消費者保護の視点ではこの仕組みが導入されていることが重要であることがあらためてわかります。
金融庁が導入しないのには訳がある
欧州圏でも正式にFX業者の事業要件として適用されたゼロカットシステムですが、日本では金融庁は国内の業者に対して同様の要件を導入するような動きを一切取っていません。
実はこれには深い訳があるのです。90年台バブル崩壊時期に国内の証券会社大手は顧客の損失をかなりの額補填したり肩代わりするといった動きにでたことから大きな刑事事件にまて発展し逮捕された幹部が大量に出ることとなってしまったのです。それ以来金融事業者がいかなる理由でも顧客の損失を肩代わりしたり補填することは許されないものとなっており、FX業者においても今なお同様の姿勢を貫くことが要求されているのです。
結果として国内では為替相場の暴落が起きるたびに値飛びが起きることでトレーダーが自ら置いた損切を超え、さらに業者が設定している強制ロスカットラインも飛び越えて価格が下落することが起き、投入証拠金をはるかに超える損失を追証として要求されるケースが何年かに一度必ず起きる状況となっています。
以下のデータは国内の金融先物取引業協会が開示しているものですが、2019年正月3日のフラッシュクラッシュでも個人を中心に6600件弱のロスカット未収金(支払い不能)の件数が発生しており総額では9.4億円もの未収金が発生する形となっているのです。
こうしてみますと海外FX業者が当たり前のように要件に組み入れているゼロカットシステムというのはかなり安全なものであり、ある意味これのためだけに海外業者を利用しても十分に意味のある制度であるといえます。
国内業者では強制ロスカット制度があるから安心などという個人投資家はかなり多いものですが、実は全く安心でないことを改めて肝に銘じるべきではないでしょうか。またディーリングデスクを持つ業者では暴落が起きますとカバー先に本当にオーダーを出しているのかどうかわからないのにいきなりスプレッドが驚くほど広がる仕組ができあがっているようで、不可解な相場の動きで顧客が一方的に損をするケースが非常に多くなっています。こちらも金融庁ではあまり問題になっていないようですが、透明性の低さという点ではかなり大きな問題で、同じFX業者でも国内系と海外とではおよそビジネスモデルが異なるのではないかとさえ思うほど取引環境の異なる部分があるのが現実となっているのです。
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