米中貿易戦争で中国のブローカーに対する規制強化

米中貿易戦争で中国のブローカーに対する規制強化

中国の厳しい資本規制

 

中国当局も人民元安に危機感

世界中が注目した「G20大阪サミット」は、2019年6月29日、自由で無差別な貿易環境の実現に向かった首脳宣言を採択して閉幕しました。アメリカ、中国の決定的な決裂は回避され、両国の貿易協議は再開されましたが、依然として制裁関税は撤廃されないままとなっています。

FX(外国為替証拠金取引)のトレーダーとしてはどの通貨を取り扱うにしても最も重要になるのがアメリカと中国の貿易戦争の行方でしょう。制裁関税がそのまま継続されている現状としては、なかなかリスクオンを予想するのは困難です。

中国の金融当局は、このような情勢の中で、「人民元安が続き、節目の1ドル7元を突破する」ことに警戒感を強めています。5月上旬には、人民元が緩やかに下落していくことを承認していましたが、節目に近づいた5月下旬には口答介入し、これ以上の人民元安が続くことへの警告を発しています。

中国が一層の人民元安に危機感を持っている理由は2点です。ひとつは人民元安によって資本が海外に流出すること。もうひとつは、アメリカが相殺関税をかけてくるなど貿易問題でさらに関係が悪化してしまうことです。

5月10日にトランプ大統領が2,000億ドルの中国製品に対して関税を25%に引き上げた際には、多くのトレーダーが人民元を売りドルを買ったために1ドル6.9元まで人民元安が進んでいます。人民元安は中国の輸出企業にとってはダメージを軽減する効果がありますが、資金の逃避は中国経済への刺激を難しくしてしまうのです。今後、後退している経済活性化のため利下げを行った場合、さらに人民元は下落し、中国国内の資産の魅力が低下していきます。ですから、中国としてはなんとしても節目の1ドル7元をブレークするのを防ぎたいわけです。

中国でのFXはグレーゾーン

中国国民がFXで人民元を売ってドルを買えば、もちろん人民元安になります。中国国民が海外旅行で人民元を売ってドルを買っても同様です。個人の影響力などたかがしれていますが、中国の人口を考えると大きな力となる可能性があるのです。

中国では個人のFXは商業銀行を通じて可能ですが、限度額が決められていますし、レバレッジを効かせることは禁止されています。しかし現状では外資系のブローカーを活用して400倍のレバレッジを効かせて取り引きをしています。多数の富裕層を有している中国市場は巨大なマーケットであり、中国当局の規制が無くなれば日本市場以上になることが予想されています。現在のアクティブトレーダーの数は日本の70万人に対して、中国は20万人と推測されています。

FXのトレーダーが増えないのは、厳しい資本規制があり、中国当局は海外への資金流出に対する監視を強化しているからです。ブローカーにとって、中国市場に進出することは収益を伸ばす可能性を秘めている反面、罰金を科されたりコンピューターの没収や現場マネージャーの拘束などのリスクも抱えています。

それでも中国国内でエキシビジョンを行ったり、取り引きスキルのレクチャーなどをして地元と太いパイプを築こうとする外資系の企業は多くいます。国内勢にも外資系プラットフォームを買収して参入しようとする動きもあります。

中国でのFXはまだ大きな規制の中にあり、海外の銀行を利用してギリギリの範囲内で取り引きをしているグレーゾーンなのです。

オーストラリアの反応

 

2019年4月金融関連の規制法案を可決

中国市場を狙っているのは主にオーストラリアのブローカーです。中国政府はオーストラリアに対して、合法的なブローカーレッジサービスを提供できているブローカーはひとつも無いという厳しい指摘をし、中国国内で活動している企業リストを提出しています。法の目をかいくぐるブローカーとトレーダーを、自分たちだけで追跡するだけでは対応不足と感じていたのでしょう。

それを受けて、オーストラリア議会は2019年4月に金融関連の規制法案を可決しました。なんといってもオーストラリアの長期好景気を支え続けたのは中国への輸出であり、中国の需要ですから、オーストラリアとしても中国の希望には応えなければならない立場にありました。

オーストラリア証券投資委員会(Australian Securities and Investments Commissions:通称ASIS)はすべてのブローカーに対して、取り引きデータの提出を要請し、顧客取り引き動向の調査を始めます。特に中国市場にサービスを行っているブローカーを注視しました。ASISは海外顧客向けサービスの力を入れているブローカーに厳しい対応をしていきます。

2019年5月オーストラリアのブローカーが撤退表明

ASICの厳しい対応に対して、オーストラリアシドニーに拠点を持つFX業者である「IFGM」が。2019年5月17日から海外顧客口座を閉鎖することを決定しました。オーストラリア国内では海外向けのサービスを自粛した初のブローカーということになります。

さらに5月20日になって、「Vantage FX」が国外の顧客へのサービスを停止すると発表しました。ただし、オフショア市場に別法人を設立し、引き続き顧客へのサービスは続けていく動きです。ケイマン諸島のライセンスの別法人に移管するよう顧客に告知しています。

中国当局の圧力はオーストラリアに対して一定の成果をあげています。国家外貨管理局(State Adoministration of Foreign Exchange:通称SAFE)は、インターネットには国境はないが、金融市場には国境が必要であり、免許なしに国境をまたぐ金融サービスは容認できないという姿勢を貫いています。これにより600以上の外為プラットフォームが摘発されている状態です。

はたして中国国内で自由にFXを営業し、FXに堂々と参加できる日はくるのでしょうか。そうなれば現在の日本の700万人とも800万人とも呼ばれるFX参加者の人数を確実に上回ってくることになるはずです。オフショア市場のブローカーの今後の中国市場への働けがけも気になるところです。少なくとも中国に圧力をかけられているオーストラリアは、以前のようにブローカーが柔軟な運営ができる場所とは呼べなくなりました。

今後、アメリカと中国の貿易戦争がどのような着地点を見出すのか、そして中国のFX市場はどうなっていくのか、結果によって為替レートは大きく変わっていくでしょう。個人投資家としても注目していかなければならないポイントになりそうです。